凍てつきし我が青春の日々⑰

昭和20年1月5日(金)曇 新年宴会

明け方、楽しい夢を見ていたが、何時の間にか起床の時間となっていた。

今日は祭日、海兵団は休業であるが、講習は実施された。非常に寒いので身体がちじかんで、ペンを握る指が冷たく、講義に身が入らない。早く冬が去り、春来たらんことを望む。春待つ心で一杯だ。暖房は勿論、火の気が全く無い生活は初めてのことだから、一層冬が寒く感じられる。昨夜は風邪のため鼻が詰まり、咽頭が痛くて困った。

今日は食卓番、朝は飯の銀蠅が出来なくて上等兵の機嫌が悪かったが、夕食の時はどうやら銀蠅が出来て、上等兵も満足した様だ。今日の食卓番は無事に終わり、重荷を降ろしてほっとした。

この世に生を享けて24年(数えで)は夢の如く流れ、今は海軍の一員として経理科の方面へ進むためペンを握って経理術の講習に従っている。これは自分に最も適した役割かも知れないが、庶務とか珠算はとにかく苦手中の苦手である。

煙草が欠乏してきたのには弱る。もう配給が有ってもよい頃だが。

昨夜見た夢が現実のものであればと、果敢ない思いに耽る。いくらこんなことを考えても無駄だが。実は昨夜の夢は召集解除となり、喜んで東京に帰り、自分の部屋に落ち着いたところで、朝となり、夢が中断され、残念だった。招集解除と言うことは、今の情勢では到底望めない。又望むべきことでもない。召集令状を受けたときは、生きて再び帰ることはない。帰る時は無言の期間だけと覚悟した筈である。それが入団して僅か七ヵ月余りでもう帰りたいと思う様では、自分ながら応召当時の感激を忘れ去りつつあるには情けない。男らしくない。もっと強く生きて行かねばならない。毎日弱気な自分を励ますのであるが、凡人の浅ましさか、この日記に現れる文語は、いつも娑婆気の抜け切らないもので我ながら情けない。今後は一層心を引き締めて頑張ろう。一兵に徹した白紙の気持ちに返って、誠を以て軍務に精進するのが、自分の使命である。女々しい気持ちを起こさないことだ。張り切って行こう。