冷たいココア缶

暑くなってきた。毎日だいたい暑い。雪国の我が住まいも例外じゃない。

今の職場で社員が拾ってきたどんぐりを数える業務が月一である。冬の間は雪で山に入れなくなるので、どんぐりを数えることはない。今年度もそろそろどんぐりかなと思い始めて2ヶ月はたつ。新型コロナウィルスの影響のためかまだどんぐりを数えていない。

 

どんぐりのツイばっかりしてるせいで、どんぐりを数える業務しかしてないと思われがちだが、誰もやりたがらない雑用を主にしている。

先日も社員が外に出している大量の看板をしまいにいくと言うので手伝いますとついていった。その社員は若い好青年で上司からぼんぼん任される仕事も卒なくこなしてる人だった。笑顔を絶やさずユーモアもある。奥さんが厳しく、お小遣いもほとんどもらえていないという話をよく聞いていた。

二人で大汗をかきながら看板をしまい終え、室内へ戻る。室内もまた暑いままだった。

しばらくして「おつかれさまでした」とその社員から声をかけられ、自販機で買った冷たいココア缶を差し出された。

とても驚いた。業務時間内に暇で死にそうだったから手伝っただけなのに、特別報酬をもらっていいんだろうかと戸惑いながら受け取った。ちょうど自分で冷たい飲み物を買おうと思っていたところだったので嬉しかった。お礼よりすみませんを強調して伝えてしまった気がする。こういう時はお礼に重心を置くべきだと後悔した。

普段甘いものを飲まないのでココアは自分では絶対に選択しないものだった。今ココアはちゃうな〜と思ったので持って帰ろうかと一瞬頭をよぎったが、冷たいもんを冷たいうちに飲まなくてどうすると思いとどまり頂くことにした。ふとその社員をみると自分に飲み物を買った様子はなかった。そういえばお小遣いが厳しいと言っていたことを思い出す。私に買うためになけなしのお小遣いを使ってくれたのかと思うと心にくるものがあった。もらったココア缶のプルトップをひき半分くらいを自分のコップに注ぐ。のこりの半分を缶ごと社員に渡した。「半分自分のコップにあけたのでこれよかったはんぶんこしましょう」これを言うのに勇気が必要だったが、自分だけ冷たい飲み物をゴクゴクすることはどうしてもできなかった。社員は「いやいやいや、全部飲んでください」と言うこともなく一発で「ありがとうございます」と笑顔で受け取ってくれた。100点の回答だよ。勇気だして言ってよかった〜。

そう思いながらココアを一口飲むと甘さ控えめでスッキリしててすごく美味しかった。自分では絶対に選択しないものを他人の介入によって新発見をする。こんなこともあるもんだなと思う。こんなこともあるもんだなの積み重ねが、死ぬ前にいい人生だったなと思えると信じている。