持続可能な魂の利用を読んで

長い付き合いの友人がいる。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきりしていて、いつも真っ直ぐ正面から伝えてくれる彼女のことが私は好きだ。面白いと思うことも大事にしていることも近いものがあるなといつも思っている。

あるとき彼女は「2文字の言葉っておもしろいよね」と言った。ガヤガヤした中華屋でのできごとだった。全然意味がわからなかった。例えば?と聞くと「どろ」とか「ぼう」と彼女は答えた。

私は爆笑した。たしかにおもろ!!!!以外の感情が出てこない。響きがとても面白い。

今これ読んでる人全員「え??なにが?」と思ったことだろう。

しかし私にとってはお笑い芸人のたとえばアンタッチャブルの柴田が動物の話を意地悪そうにするだけで無条件で笑ってしまうあの感覚。全然例えになっていないことは承知している。もうこれ感性の話になってくるのでわからなかったらしゃーなしと半分暴力的な感じで今書いてしまっている。

2文字面白あるあるを話してくれた彼女は共感してくれる人がんこちゃんともう一人しかいないと言っていた。希少種の感性らしい。

 

松田青子さんの「持続可能な魂の利用」を勧められて一気読みした。

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冒頭で「おじさん」という言葉が50回も出てくる。「おじさん」という語感も「どろ」や「ぼう」と同様に無条件で面白いと思ってしまう言葉だった。

勧めてくれた人は私が「おじさん」って語感好きなこと知ってたのかな??と思うくらい繰り返し出てくる「おじさん」というワード。

でも読み進めていくと私自身が「おじさん」からされた仕打ちをだんだん思い出してきて、「おじさん」というワードを冒頭で面白がってた自分を殺したくなった。2文字の言葉で笑っていた自分を否定はしない。ただ「おじさん」から受けた仕打ちに蓋をして「おじさん」の語感だけを楽しんで、本当の気持ちから目を逸らしていた自分に心底腹が立った。

例えば制服を着ていた学生時代、通学中にバスの中で太ももの写真を撮られたり、歩いている時に後ろから走ってきた「おじさん」にスカートをめくられたりしたこともあった。

それを面白おかしく傷ついていませんよと言わんばかりにネタにして友達に話したり、ブログに書いていたあのころの自分を往復ビンタしたあと抱きしめてやりたい。自分に嘘をつくんじゃねえよと。

 

作中で具体的にこそ名前は出さないが有名なアイドルやバンドなどがでてくるのが妙にリアルで、後半で少しSFチックな展開になっても無理やりな感じがしなかった。それだけ中盤までのリアリティと今の世の中を的確に切り取っていたように思う。

去年長田杏奈さんの「美容は自尊心の筋トレ」を読んで感銘を受けたあとに勧めてもらってよかったと思える作品だった。タイミングがすごくよかった。

 

人から本を勧めてもらうことはとても嬉しい。誰かのプライベートな時間に一瞬でも自分のことが頭によぎっていたんだと思うと心底嬉しい。

今回も夫ゴリラのフットワークの軽さによってすぐ手に取ることができた。アリガト!アリガト!