スナック鳥男を教えてくれた男

幸せなことに親友と呼べる人がいる。学生の時のバイト先で知り合った人だ。
漫画と音楽の趣味が近く、私の知らなかったものをたくさん教えてくれた。気配りのできる優しい人だった。仲良くなるきっかけはそれで十分だったのに、好きな人と苦手な人のタイプも同じで話が尽きることはなかった。

在学中にそのバイト先が潰れることが決まった。最終出勤日に店の外の非常階段でお別れの話をした。「使い方は間違ってるけど目に入れても痛くない存在だった。寂しいね。」と私は伝えた気がする。彼も「使い方間違ってるけど目を超えてむしろ俺の瞼だから」と言ってくれた時はとても嬉しかった。意味わかんない。
すごくすごく仲がよかったけど彼に恋愛感情はなかった。お互い恋人がいたし、なによりこのままの関係が一番居心地がいいとお互いわかっていた。クイックジャパンの宇垣アナの連載で親しかった先輩への手紙で「抵抗がありながらも、それでもつながっていたいと願う友情は恋愛関係なんかよりもずっとずっと価値があるもののような気がします」がすごく響いたのは彼がいたからだと思っている。尊い。「抵抗」の意味合いは宇垣アナと違うと思うが、すごく共感した。

バイト先がなくなっても数ヶ月に一度は会って近状を伝えていた。家がゴタゴタしていた時も話をしっかり聞いてくれた上でいつも笑い飛ばしてくれた。救われた。私も人に対してこうありたいと思った。
本人は覚えていないと思うが「30になってお互い恋人いなかったら結婚するか〜ワハハ。」なんて冗談を言われたこともあった。これ漫画とかで見たことあるやつだ。自分なんかにありがたいこと言ってくれるな。あーなんか暮らせそうと思ったりもしたけど、そうらならないだろうという直感があった。

私の結婚が決まった時も喜んでくれた。同時に他県に嫁ぐことも残念がってくれた。
離れた場所にいてもラインでの連絡はほとんど取らなかった。会った時に言葉で目一杯伝えるためだった。
実家に帰る数日前に会えるか聞けばいつでも空けてくれた。いつもと同じようにくだらない話から人にはなかなか言えないような毒もネガティブなこともたくさん話した。その日のその日の別れの名残惜しさより、心ゆくまで喋らせてくれて帰りの足はいつも軽かった。会う前はいつも本当に楽しみだった。

年末に久々に彼に会った。彼は近々実家に帰ることになったという。私の実家からは離れた他県だった。その時に彼の実家の事情がかなり複雑だったことを聞いた。わたしよりずっとずっと大変な事情を抱えていた。なかなか神奈川に遊びに来ることは出来ないそうだ。会うのが難しくなる。彼が遠くに行ってしまうよりも実家の事情のほうにショックが隠せなかった。
だが同時に嬉しいお知らせも聞いた。約10年ぶりに彼女ができたという。
不安定な生活を送っていた人だから心底安心した。もう付き合うまでの過程がめんどくさくて彼女いらんとまで言っていたのに、地に足つかずフワッフワしていた。しかも彼女は死ぬほど可愛かった。
心配させないように、後から浮いた話を持ってきてくれて彼の配慮を感じた。

その日話の流れでわたしのことを「親友」と表現してくれたことがあった。友達とはまた違うシンパシーを感じていたのはわたしだけじゃなかった。彼もそう思ってくれたのは知っていたけど、直接伝えてくれたのは瞼発言以来だ。嬉しかった。

このブログのURLを彼に伝えたかもう覚えていない。彼はツイッターもしていないからきっとここを見ることはないだろう。

この感謝の気持ちをどうやって伝えよう。自分の本当の気持ちを人に伝える時いつも涙が出ちゃうから躊躇しちゃうな。本当のありがとうはありがとうじゃ足りないんだはこのことだと思っている。
どうかどうか今後も幸せであってほしい。