へたれないタオル

今では全く使うことがなくなったが、栄養士の資格が取れる大学に通っていた。

就活のとき希望していた食品会社は全て不採用で、委託栄養士の会社員になった。

 

初めて配属されたのは中規模の老人ホームだった。三食プラスおやつを提供する仕事に関わることになる。

社員は私と上司だけであとはパートさんで回していた。

パートさんの関口さんはわたしのちょうど20歳上の人で、給食用のかっぽう着を身につけ、マスクをして帽子を被っていても、洗練された上品さが出ている人だった。

 

この現場は調理業務と栄養士業務で作業がわかれており、関口さんから栄養士業務を教わった。

とにかく手作業が早い人だったが説明は丁寧で、なにより社会人一年目のわたしを立ててくれる人だった。

関口さんがクセが強い関口さんよりずっと年上のパートさんから理不尽なことを言われても、

「余計なことは言わないって決めているの」とこっそり教えてくれたこともあった。

社会に出てからの大人を目の当たりにした瞬間だったように思う。

きっと社会生活でたくさんの経験をして生き延びた術をひとつ見せてもらった気がした。

 

わたしが社会人のお手本にしていた関口さんもチャーミングなところがあった。

今年の自分のクリスマスプレゼントはずっと目をつけてたブーツを買うのとにこにこしていた時や、

年末は家族でガキ使を見ながら過ごすのがとても楽しみと教えてくれた時

とても意外だったけど関口さんのことがもっと好きになった。

余計なことは言わない主義だけど、自分の意思をしっかり持っていて

どんなものが好きでどんなものが許せないかわたしに教えてくれた。

こんな経験をしてこう思ってこういう行動をしたということをたくさん教えてくれた。

社会にでて初めて身近に関わった人が関口さんで本当によかったと思う。

 

配属されて1年半後にわたしの結婚が決まり、現場から離れることになった。

社員として嫁ぎ先の近くの店舗の配属が決まっていた。

「あなたならどこにいってもやっていけるわよ」言われ小さい包みをいただいた。

とても嬉しい言葉だった。

開けるとかわいいFEILERのタオルとメッセージカードが入っていて

「どんなに洗濯してもへたれないタオルです。がんばってね」と書いてあった。

 

あれから10年以上経つけど、いただいたタオルはまだ使っているし、

あなたならどこにいってもやっていけるともらった言葉はわたしのなかでまだ力になっている。