大人だって、泣いたらいいよを読んで
表紙はイラストレーターのわかるさん
昔からこの人のLINEスタンプを愛用していたので馴染みのある表紙だった。
わかるさんのツイートにより紫原さんがクロワッサンオンラインでお悩み相談の連載をしていることを知った。
エッセイは好きでよく読むが、対談形式のものやお悩み相談ものは読んでこなかった。
紫原さんの回答はとても鮮やかで、そんな切り口があったのかと驚いた。
面白い人を見つけると過去作まですぐ遡ってしまう癖のある私は、過去の記事を貪るようにして読んだ。
その連載が今回一冊の本になった。発売前からとても楽しみにしていた。
発売するにあたりTwitterで新しいお悩みを募集していて、私も紫原さんから回答してもらいたい。
その回答を自分の血肉にしたいという欲望がむくむく湧き、文章を考えてみたけれど自分の悩みをまとめることができず見送った。
この本のなかで「人に好きになってもらえない、モテるにはどうしたらよいか」という悩みに対して
紫原さんは「するべきことはただ一つ。相手の素敵なところを見つけて伝える」と回答していた。
なんてシンプル。
そこで本を読んで頭の引き出しが開きやすい私は思い出すことがあった。
相手の素敵なところを見つけて伝えるということは私もしていた時期があった。
私にとっての「素敵」は自分に持ってない発想や言葉の選び方を持っている人だったのでこういうことできてすごいねと伝えたり、その発想にいたるまでどういう背景がのその人にあるのか聞いたりしていた。
それがやっぱり自分の血肉になるような気がしたしとても面白かった。
でもある日すごいねと伝えた相手に
「普通の人はそんなふうに相手のことを直接褒めたりしない」とばさっと言われた。
だから貴重だねみたいに良いことばが続くことはなかった。
アニメ飛べ!イサミのオープニングテーマ冒頭よろしく鋭くいかれたわけ。
ハートを磨くっきゃない、名曲だな。
鋭くなんて今だから言えることで当時はなんかもやぁとして「そっか。へへ…」とヘラヘラして自分からうやむやにしてしまったけど
この本を読んで、「普通じゃない」と批判されたような気になってその時実は傷ついていたことを知り、自分がしていたことを紫原さんは肯定して他者にもさらに勧めている…!と思い救われた。
救われると下向きな考えから解放される。「普通じゃない」とバッサリ言った子はもしかしたら思いもよらないところを褒められて恥ずかしくて咄嗟に出たことかもしれないみたいに違う角度から考えることができた。
本当のところどうだったかなんて今の私にはどうだってよくて、
自分が直接紫原さんに悩みを送らなくてもこういった形で自分の血肉になることを知った。
送られてきたお手紙を頼りにどんな相手かを想像して、寄り添い、相手の素敵なところを見つけて伝えるということは
全ての相手に紫原さんがしていることだった。
選択肢を複数提示する場合はどれを選んでもなんかハッピーになれそうな気がする回答もあれば
人間関係ってパワーゲームだからとキレッキレの真実を突きつけられたりもして
その緩急にぐっときてしまう。
お悩み相談の間に挟まれるエッセイはそんなとこまで見せちゃっていいの?!というエピソードがあって元気がもらえた。
私の尊敬する人は「損をするぐらいのつもりで書いたのではないかという本が、私を何度も勇気づけた」と言っていて
私にとってのこの本はそれに該当する気がした。(損をするつもりで全然なかったら大変申し訳ないのですが)
スマートな大人がふと無防備な言葉を口にするとほっとして愛おしく思うと紫原さんは言う。
それは無防備な言葉をこぼす側からすればとても安心する言葉だ。無防備をダッサと切り捨てず愛おしく思う精神は持っていきたい。
相談者ではない読者で救われた人は私以外にもたくさんいるはずだ。