凍てつきし我が青春の日々⑯

昭和20年1月4日(木)晴後曇

昨晩は雨が降っていたが、今朝は珍しく晴天である。やはり天気良いと気分まで良い。手に霜焼けが出来て困る。こんなに左手が腫れてしまったのは、今年が初めてである。昨年迄は非常に楽をしていた関係で、今年の冬は特に辛く感じられる。

講習も段々終わりに近づいて行くが、学生時代と異なって少しもやる気が無いので、勉強する気になれない。特技章が欲しくて、講習に来たのではないから、特にそんな気持ちとなるのであろう。

我々六月一日入団の兵隊は何処に行っても最下級で、何時も気兼ねばかりして、日々を不愉快に送っているが、やはり階級が上がらないことには、どうにもならない。昨年下士官候補の試験を受けた方が良かったかもしれない。

入団して七ヵ月以上になるが、その間父と三回面会することができたが、もう一度ゆっりと会って話をしてみたい。

近頃は随分永く何処にも手紙を出さないが、こういうことではいけない。故郷と東京には少なくとも月に一度は出す様にしよう。

学生時代の友人は今頃、如何していることだろうか。大学予科を通じての親友だった福田兄は大学卒業と同時に満州へ行ったが、その後の動静が少しも分からないが、如何しておることだろう。亀田君もこの三四ヶ月便りが来ないが、どうしたのであろうか。

この頃はハンモックに入ってから、よく夢みたいな事を考えて、独りで楽しんでいる。色々なことを空想しながら、何時の間にか眠ってしまうのである。この時が一番楽しい。従って夜の時間が非常に短く思われ、朝になるのが大変早い。伍長室の時計がカンカンと六時を報じるともう、のんびりと寝ておれない。総員起こしに備えて、毛布の整頓等をしたりして、寒さに震えて、今に総員起こしの号令が掛かりはしないかと、思いながら待機する。この時が何と言っても一番苦手だ。次の苦手は朝の駆け足である。今にも倒れそうである。その次は食事当番である。三日に一回当番となる。無事終わるとホットする。海軍に入って何よりの楽しみは食べることである。それも甘いものが欲しく思われる。甘い物ならなんでもよい。腹一杯食べてみたい。到底実現出来ない様なことばかり考えて、くだらないが、何故こんな考えが起きるのだろうか。

朝はよい天気だと思っていたが、次第に曇り始めて、どんよりとした天候となってしまった。冬の暗いこの天候には、気分まで滅入ってしまう。

明日は食事当番だ。実際この時ばかりは気を使うので、神経衰弱にでもなりそうだ。

一日を無事終わって、バスに入り、温まってこの日記を気持ち良く書いたことが、一度でもあっただろうか。殆ど毎日泣き言の連続で、情けない。

今日のバスはよく沸いていたので、気持ちが良かった。しかしすぐ寝ることが出来ないので、ハンモックの入る頃には身体は冷え切っており、寒気がする。二か月前にひいた風邪が未だ治らないので困る。

昭和20年もやっと始まったばかり、今年は何処に配属となるのであろうか。もう一度針尾海兵団に帰りたい。針尾は良かった。皆同期の桜で、お互い少しも遠慮が要らず気持ちよく、愉快に過ごせた。あの頃が懐かしい。二度とあの頃の様なことは無いであろう。では故郷の皆さん、東京の皆さん、お休みなさい。